スキースポーツが教育に果たす役割《月刊スキージャーナル2005年11月号》

 北海道や、最近耳にした噂では新潟県の越後湯沢においてもスキー授業を実施する小中学校が減少してきているという。教育制度に関する国や県の姿勢が要因のひとつであると叫ばれているが、印象としては 「残念! 」という以外の論をもたない。

 私見としては、スキースポーツが教育に果たす役割は多大なものがある。紙幅に限りがあることから、その理由は至極簡潔なものになるが御笑読いただければ幸いである。

大自然から得る生命力

 天候にも大きく左右されるスポーツであるが、とくに吹雪や雨、霧といった悪天候の中においては、明日の命が保障されない国で生きている人々のことをよく思う。我々、日本人がいかに恵まれた国で生を享受していることか。 「この程度の寒さでへこたれてどうする! 」 自然は人間に対して、どの程度の器の動物かを常に試しているような気がする。スキー場に林立する木々が、どんな強風にも耐えて力強く生きている様は 「人は座って半畳、寝て一畳 」の諺を思い出す。人間一人の力の限界を示唆し、協力し合い、支え合い、努力しながら生きていかねばならないことの尊さを教えてくれる。スキースポーツに対して長年思い、感謝するのはこの点である。

不便さに対する価値観

 世の中が便利になっていくことは、一方では歓迎されることであるが、反面、 「我慢 」とか 「辛抱 」とか、自己利益に反する忍耐力は反比例するように低下し、人間が加速しながら我侭になってきているように思える。いま、もし携帯電話が消えたら、公衆電話を探して歩くことを想像しただけで、ほとんどの人は苦痛を感じてしまうのではなかろうか。

 欧米の一流スキーリゾートにおいては、あえて新聞もテレビも置いていないホテルがある。滞在中は頭を空っぽにし、それが明日の英気を養う作用を施すといった 「心の健康 」を取り戻していただくためだ。その 「不便さが提供する喜び 」を、互いに理解されているところが本家本元と称される国々が一定のスキー人口をキープしている所以かもしれない。

公共の場におけるルール・マナー

 スキー場は公園などと同様に、来場されたすべてのお客様が公平に楽しむ権利をもつ 「公共の場 」。その空間の中で、総体的に言ってルールやマナーの低下が気になる。禁止区域での滑走、リフト乗車の際の割り込み、係員にリフト券を見せない、禁煙スペースでの喫煙、通路部分での座り込み、執拗な割引強要・・・等、こうした社会常識を欠いた行為はスキー場限ったわけではもちろんないが、秩序なき個人主義が横行し、倫理観が欠落傾向に走っている印象は禁じえない。

 親から子へ、子から孫へと受け継がれてきた人生観や倫理観を形成する家族制度や家庭の姿が崩壊し、子供にとって第一の 「具眼の士 」であるべき親に、まずその責任と自覚のなさが目立つ。複雑な社会構造の中で簡単に結論づけられる問題ではないが、戦後社会の経過において大きく変容してきた姿のひとつであることは確かなところだろう。

 しかし、スタッフ教育の行き届いたスキー場においては、自然とお客様自身が互いにルール・マナーに対して厳しさを持つようになり、快適な空間演出に大きく寄与している。

スクールはもっとも年齢幅の広い学校

 今年の2月時点で 「ニート 」と呼ばれる無就業者は84万人に達したという。日本の生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年を境に減少し、2005年には8,400万人だが、20年後には7,200万人と予測されている。ニートでいる理由には 「やりたいことが探せない 」 「社会の仕組みに係わる経験が少なく、就業の選択肢がわからない 」 「適性観が自分でわからない 」といった背景があるようだ。

 当スクールには受講生のすべてが集い、歓談できるラウンジを設置しているが、そこでは同じ班になった学生が社会人に対して進路や社会の仕組みについて聴講しているような光景を目にすることがある。年齢幅の広さは、必然的に多種多様な職業の人との交流を生み、教育的な面においてもプラスとなっていることは疑いのない事実である。

心身ともに健康な姿の育成

 子供たちの体力が、どんどん落ちてきている。外で遊ばない、塾で忙しい、レトルトな食生活、運動会でも順位をつけない学校の増加・・・こうした実態を伺うにつけ、複雑な心境になる。世の親たちは一様に学校の成績にはデリケートなのでしょうが、身体の健康についての関心度はどうだろうか。

 頭脳がより明晰になることを、もちろん否定するものではないが、その源となるのが健康な肉体であることに議論の余地はない。 「健全なる精神は健全なる肉体に宿る 」ことは、今更語るまでもない。

 スキースポーツは全身を使う運動であり、真っ白い大自然からは生命力や心の豊かさを学び、人と人との出会いからは社会のルールや規範を習得できる 「心身ともに健康な姿 」を創造するスポーツ。この不変の真理をもう一度 「教育 」に生かしていただきたい、と切に願うのは私だけではないはずだ。

今 孝志

開田高原マイアスキー場代表取締役社長、

SIA公認マイアスキーアカデミー校長、

北陸信越索道協会理事