My favorite ski resorts《月刊スキージャーナル2000年11月号》

8. St.Moritz (スイス)

 スイスの東南部、イタリアとオーストリアに国境を接しているエンガディンの谷。谷の長さは約100キロ、ピッツ・ペルニナ(4,049メートル)を主峰として、ピッツ・ロゼック(3,937メートル)、ピッツ・パリュ(3,905メートル)といった美しい雪峰がそびえているベルニナ山群を擁している。その中心地であり、そして1928年(第2回)と1948年(第5回)に2度の冬季オリンピックを開催しているサンモリッツ(St.Moritz)。チューリッヒから200キロ、ジュネーブからは464キロのところに位置している。ぼくがこれまで巡歴してきた海外スキー場の中では、もっとも「雅」な印象が残っている。

 標高1,768メートルの渓谷に広がる神秘的なサンモッリツ湖。街はその北側のドルフと南側のバートのふたつの地区に分かれている。高級ホテルやブティックが立ち並び、賑わいを見せるのがドルフ側。中世の城を想わせるような重厚な石づくりの外観が特徴の「バドルック・パラス」やロビーのシャンデリアが、これまた豪華な「クルム」などの5つ星ホテルが威厳を感じさせる街中に、ルイ・ヴィトン、ロレックス、カルティエ、シャネル、エルメス、セリーヌ、アイグナー、バリー、ロイヤルコペンパーゲンなど、いわゆる一流ブランド店がさりげなく並んでいる。

 ホテルは計42軒で、そのうち4つ星以上が40%を占めているだけあって、レストランもそれなりにすごい。計83軒ある中で、前述のバドルッツ・パラスには同名のフランス料理店があるが、完全予約制で、かつビシッとした正装でないと入れてくれてないし、服装を気にしなければいけないレストランも多くある。が、探してみると庶民的なところも結構あり、豪華、贅沢な空間ばかりではないところが気に入っている。1658年に建てられたといわれる「チューサ・ヴェリア」は重厚な雰囲気で風格はあるが、郷土料理で素朴さが感じられ、ステンドグラスの天井がお洒落な「カスカーデ」はカジュアルなイタリアンレストラン。紅色の外壁がしぶい「ハンゼルマンス・コンディトライカフェ」は、この街一番の洋菓子喫茶。約20種類ん野ケーキや乳製品が有名なスイスならではの自家製アイスクリームは、訪れるすべての人々から好評を博している。また、地元の人に人気が高かったのが「フェトリナーケラー」。炭火焼の肉や魚料理が中心の店だが、かなり多くのワインがそろっており、料理も手ごろだ。食の最後にもうひとつ。店の半分がテラス席で、湖を眺めながら食事が楽しめる「シュタインボック」。イタリア料理中心だが、土曜日以外は毎日ランチメニューがあり、このレストランはぼくにとっての5つ星。

 冬季オリンピックにボブスレーとリュージュは欠かせない種目であるが、サンモリッツではオリンピックで使用したコースを一般にも開放している。まずは「ボブ・ラン」と呼ばれるボブスレーコース。時速100キロ以上で氷の通路を滑り降りるその迫力は、どう伝えて良いのか、形容する言葉がみつからない。氷上の格闘技とでも言ったらいいのか。挑戦できるのは4人乗りで、前後にはプロクルーが乗り込んで操縦してくれるので安心だが、とにもかくにもスリル満点。リュージュコースは「クレスタ・ラン」。最初はどう操っていいのか要領がわからずコースアウトしたが、3回目には完走。テレビではオリンピックの度ごとに見てきたが、実際にトライしてみると、これも「本物」のスノースポーツだと実感させられる。ボブスレーもリュージュも会員組織を形成しているが、そのメンバーはヨーロッパの社交界そのものではないかとおもうくらいすごい顔ぶれ。日本でいえばさしずめ小金井カントリークラブのメンバーになるくらい審査は厳しいものなんだろうな、と勝手に想像したしだい。

 またサンモリッツを語る際には「ホースレース」も見逃せない。通常の競馬とは違い、雪上だけに馬ソリに乗ってのりものや騎手がスキーを履いて引かせるものだどがあり、観客からはかけ声や転倒した際の笑い声が飛び交い、なかなかおもしろい。ベットは単勝、連勝複式、複勝とあり、アプレスキーの一環にはとどまらないリゾート施設としての充実度には恐れ入る。

 滑ることに関してはオリンピック開催地だけにコースは全長240キロ。大きく分けて街の西側に広がるのがピッツ・ネイアと呼ばれる地域。過去のオリンピックもこの斜面が使われ、山頂は3,057メートル。大会バーン以外は緩〜中斜面が多く、リッチな年配スキーヤーと共にゆったりとしたロングランを満喫したい。一方、町の南側にあるのがピッツ・コルバッチ。2つのロープウェイを乗り継ぎ、そこからTバーであがったところが標高3,451メートルで、このスキー場の最高点。コースはバラエティに富み、上級者でも飽きることはない。

 クロスカントリースキーも盛んなところだが、その代表が「エンガディン・スキーマラソン」。1967年から毎年3月に開催されているこのレースは42キロのコースで競うもので、20歳以上なら誰でも参加でき、いまや1万数千人の出場者で賑わう世界的なイベントして愛好者にはその名を知られている。