My favorite ski resorts《月刊スキージャーナル2000年6月号》

3. Lespace Killy (フランス)

 「僕が柔道の世界チャンピオンになろうと思ったら、まずは日本に住んで、できるだけ日本人になろうとするだろうね。やっぱり本場だからね」 「どうしたら日本人選手はもっと強くなれるのか?」の問いに、VAL D'ISERE生まれで68グルノーブル冬季オリンピック(フランス)における男子アルペン三冠王、ジャン・クロード・キリー氏は開口一番にこう語ってくれた。一部の選手を除いては、確かに欧米人になろうとしている日本選手はまだまだ少ない。 スキースポーツを取り巻く環境が違いすぎるうえに、文化、言葉、食事などが異なる「本場」において勝つことは、想像以上にむずしいというわけだ。

 それでは、そんなキリー氏にちなんで名付けられLESPACE KILLY (VAL D'ISERE &TIGNES)と呼ばれるスーパースキーリゾートを紹介してみたい。場所はスイスのジュネーブより224キロ(定期バス運行)、パリからはシャンベリーまでTGV(超特急列車)で3時間、そこから136キロのところに位置している。標高は1540メートル〜3550メートル、その標高差にまず驚くが、わが国ではFIS公認のダウンヒル競技(標高差800メートル以上)を開催できるスキー場ですら、いくらもない現状から見ても、さすがヨーロッパアルプスである。  鉄道式ケーブルカー(フュニュキュレ)やロープウェイ5基、ゴンドラ8基をはじめ、チェアリフト、Tバー合わせて102基という輸送能力を誇り、ゲレンデの総延長は350キロにも達する。一般的にはすべてのコースを滑るのに最低でも4日はかかると言われているが、このエリアが世界的に有名になった背景には、規模やキリー氏の故郷ということだけではなく、ゲレンデ面積の100倍ともいわれるオフピステの広さもある。僕がこれまで訪れたスキーリゾートの中では、気象条件のタイミングもあっただろうが、ここの新雪はまさにPOWDER AMONG POWDERSの印象がある。

 両スキーエリアのおもだったコースをあげると、まずVAL D'ISERE側では一番奥のフォルネ。手付かずの自然が残されており、鹿やうさぎ、マーモットなどの動物たちにしばしば出会うことができる。街に隣接するように広がるコースのソレーズは山頂にテラスがあり、日光浴をする人々の多さが目立つ。また、ここには子供専用のコースもあり、日本のスキー場のように大人にぶつけられてケガをするのではないかとハラハラしている親の姿はない。スキー場の玄関口に位置するラ・ダイヤはワールドカップのダウンヒルコースを含むダイナミックなコースレイアウトで、山頂付近の広々としたコースから後半の大きく曲がりくねった地形での滑走は誰でもトライする価値充分。  

 一方、TIGNES側に目をむけてみると、なんといってもグランモンテをあげたい。365日滑走できる世界最大級の氷河スキーエリアで、ロンゲストランで12キロが楽しめる。サマーシーズンには各国のナショナルチームがキャンプをはっており、感動的な技術を間近に見ることができる。スキー場の中心からリフトを2本乗り継ぐと、右手に風化してできた岩のアーチ「エギュイ・ペルセ」が見える。10メートルほどの高さで、とても自然にできたとは思えないほど美しい。訪れた際にはぜひとも記念写真を撮っておきたいポイントだ。隣接するVAL D'ISEREと接続するエリアがトビエール。湖畔の脇から出ているゴンドラを利用すると、一気にトビエールの山頂に上がることができる。ここからどちら側にも滑りこむことができるが、VAL D'ISERE側には大きなすり鉢形のスロープが広がり、反対斜面のTIGNES側は中・上級者向きのトリッキーなレイアウトになっている。  

 街並みは木と石が調和して重厚な雰囲気のVAL D'ISEREに対し、TIGNESは近代的な建築物が建ち並ぶ。1996年より進められているプロジェクト「ティーニュ・クオリティー2000」のもと、より質の高いサービスを提供するためにさまざまな施設が計画されてきたが、中でもクリスチャン・デュ・ポルタンパルク氏のデザインによるインフォメーションセンターでは、ホテルの予約、荷物預かり、ショップ、パッケージサービスの販売など、滞在中に必要なすべての情報とサービスがここで提供できるようになった。  

 また、トラフィック・フリー・リゾートをめざしてきたTIGNESの情熱は2700台収容の地下駐車場をも建設し、地上から自動車を一掃した。 「本質を追求」する姿勢は日本のスキー場経営者の中にも若干名見られるが、大半が質の低下に拍車をかけている現状は残念至極である。  フランスの高級リゾートらしく映画館、ボーリング、スケートリンク、スポーツクラブなど多種多様のアクティビィティやレストランが軒をなしているが、食に関していえば、お薦めなのがTIGNESの「LETERLOU」。ここで「パゼホ」とオーダーすると、炭火焼風の焼肉が出てくる。それをケチャップをつけて食べるのだが、これがなかなかイケル。その他、5歳以下と75歳以上はリフト券が無料だったり、街中はつねに無料のバスが巡回して施設間の移動に困らないように運営されているなど、いずれにしても訪れた 人々に「いかに快適に過ごしていただくか」の気配りの次元の高さが、21世紀型スーパーリゾートといわれる所以ではなかろうか。