My favorite ski resorts《月刊スキージャーナル2000年3月号》

2. Zermatt  (スイス)

 アルプスの「スフィンクス」とも「ピラミッド」とも称される世界有数の秀峰マッターホルンを借景とするツェルマット。その美しさに対する形容は、いくら美辞麗句を並べても切りがない。標高1620m〜3899m、コース全長150kmを誇るツェルマットのコースはスネガ、ゴルナグラード、トロッケナーシュテークと大きく3ブロックに分かれる。マッターホルンの勇姿は、もちろんそれぞれのブロックエリアから眺められるが、スネガからのそれはことのほか美しい。スネガへはツェルマットの街のはずれ、ウィッスプ河畔にある黄色い建物が出発点の超高速地下ケーブルを利用する。近代的な建物の中に入ると、ケーブル乗り場まで地下道が続く。ツェルマットから白銀の世界を歩いてきた目に、この建物はあまりに鮮烈である。ケーブルは標高差700?を一気に駆け上がってしまう。ヨーロッパのスキー場は総じて輸送施設が充実しているが、ここも例外ではない。

 一方、ツェルマットのスキー場の真ん中に位置するコース群のゴルナグラードへは登山電車を利用する。ここで注意することは、登山電車は進行方向の絶対右側に乗ること。いつも混んでいるので反対側ではマッターホルンの勇姿を眺めることができない。終点のゴルナグラード駅は重厚なレンガ調の建物でカフェからの景観もまた「お見事!」の一言に尽きる。

 人がもし海外のどこかで恋心を打ち明けようと思ったとき、どんなシチュエーションを想定するだろうか。サンフランシスコやマンハッタンの夜景もいい、地中海の海岸沿いもムードがある。サンタモニカの灼熱の太陽のもとで熱い想いをはじけさせるのもいいだろう。が、スキー人としてはゴルナグラードでワイングラスを傾けながら恋を語るシーンがどこにもましてハマルような気がする。「言葉で形容できるほど軽くない光景」の中では黙って相手の瞳を見ていればいい。アルプスのスフィンクスがすべてを抱擁してくれる。

 また街から見てもっともマッターホルンに近いコース群がトロッケナーシュテーク。さらにロープウェイを乗り継いでクラインマッターホルンまで上がると展望台がある。ここは標高3884mあり、ヨーロッパのスキー場では最高所に位置するビューポイントだ。ここからは国境を越えてイタリアに行くことができ、そこには標高差1880m、ロープウェイが7基もあるチェルビニアスキー場が眼下に広がっている。チェルビニアはキロメーターランセ発祥の地として有名なスキー場だが、ここから見るマッターホルンの「顔」の違いに、まず驚かされる。イタリアではマッターホルンは「モンテ ・チェルビーノ」と呼ばれ、スイスとイタリアとの分岐点にあたるプラト ・ローザ氷河(標高3500m)では、一年中スキーが楽しめる。

 山の呼び名が変わると雰囲気もこれだけ違うのかと思うくらい、ツェルマットとチェルビニアではムードが一変する。僕の印象から簡単に言うとスイス側は“真面目”イタリア側は“陽気”となる。ミラノから220kmという近さもあってかファッションに関するショップも一味違う。なんといってもチェルビニアに行ったら皮革製品に目を向けたい。絶対に安い! 中でも「OTTAV」や「GIPSY」に立ち寄ることをお勧めする。

 話をツェルマットに戻し、次はちょっとスキー場の環境問題に触れてみたい。日本のスキー場や観光地でも、昨年は自然保護に対する議論が横行しているが、ツェルマットの街ではガソリン車を見ることはない。乗り入れが禁止されているためだ。自動車で来られたお客様は手前のテッシュの駅に駐車して、そこから鉄道に乗り換えてツェルマットに入る。街の交通は電気自動車と馬ソリだけ。建物の高さ、色彩も規制が徹底しており、世界的な山岳リゾートにふさわしい環境保護には日本のスキー場を抱える行政もまだまだ見習わなくてはいけない点が多々ある。日本人と欧米人とでは国民性、労働時間、休日体制等の社会構造の違いから一概には語れないものの、ツェルマットの宿泊施設にはテレビも新聞も置いていないところも多くみられる。これは不親切でそうしているのではなく「ここに来たら頭をカラッポにして英気を養ってください」という配慮からだ。私見で言うなら、日本人というのは時代が進むにつれ「不便さに対する価値観」を見失ってきたように思われる。非日常における生活のあり方を考えさせてくれるのも、またここの魅力である。

 紙幅に余裕がなくなってきたので最後にツェルマットでもっとも有名な一族を紹介して今回はペンを置くことにしよう。ユーレン一族、ゆかりの人々は30人ほどだが、彼らはすべてこの地を愛し、離れることがない。ポール好きの読者ならおわかりだろうが、’84サラエボオリンピックの男子GSのゴールドメダリストのマックス ・ユーレンはスポーツ店を経営し、’88カルガリーオリンピックの男子DHのゴールドメダリスト、ピルミン ・ツルブリッケンの愛妻は前述のマックスのいとこにあたるモニー ・ユーレン。彼女は両親が営むレストラン「シェフ ・フローニー」を手伝っており、姉のレニーもなかなかの美形な仲のいい姉妹だ。なお、大阪出身でスーベニアショップ「ウェガ」に婿に入ったキミ ・西永氏が住んでいる街であることも、忘れずに記しておきたい。